○回向院大相撲
・霖雨のため一昨日の日曜にようやく三日目を打ちしが、当日は終日曇天にて折々雨催いありしかば或いは入掛けになりはせぬかと気遣いたるが、どうやらこうやら終りまで取り結びたり、貴顕方には蜂須賀侯池田侯吉井伯その他元老院議官等を見受けたり。
・野州山に春日野は、春日例の如く敵の右を引張り込まんと一寸と当ッて立上りしに、野州は二本差しとなりて攻めヨラんず有様なりしが、諸に絞り珍しくもヒネりて春日野の勝。
・鬼ヶ谷に芳ノ山は、立上りざま鬼は一層烈しくヨイショと二度まで突張り三度目にて極まりたるが、芳は此の時待ったと云いしもすでに二度目の突張を受けたれば勝手悪しと三度目に待ったを言い再び取直さんとせしが、流石に行司は承諾せず団扇は見事鬼ヶ谷に上りたり、然るに芳は土俵を下りず溜りの今泉などが苦情を起こし、四本柱の検査役総立ちにて仲裁の労を取り、ようやく預となりしが勝星は無論鬼ヶ谷の方なるべし。
・八幡山に今泉は、立上り左四ツにつがい八幡は上手を引きて左手をも引かんと種々に工夫を凝らせども、今はこれを挟み付け少しも動かさず互いに腰を狙い競り合ううち水入り、のち再び睨み合いしが果てしなきとて引分は不感心。
・伊勢ノ海に常陸山は、右四ツヨリて常陸の勝。
・鞆ノ平に千年川は、立合いに千年小癪にも突張らんとせし際、腰の延びたるをすかさずハタキて鞆の勝は流石に老練。
・真力に西ノ海は、左を引張り右外ハヅにて攻め付け難なくヨリて西の勝。
・大鳴門に響舛は、当日見ものなれば如何あらんと見てあるに、力士は見苦しくも十有余度ばかりの化粧立をなせし上ようやく立上ると烈しく響は左差し、右で敵の前袋を探りしが鳴門は泉川で極めんと争ううち、早くも前袋を取りて押しツツヨリて響の勝は満場破るるばかりの喝采なりき。
・知恵ノ矢に北海は、右を預け押出して北海の勝。
・伊勢ノ濱に上ヶ汐は、伊勢左を差さんと付け入るを、ヒネリて上ヶ汐の勝。
・嵐山に司天龍は、司右を差し鋭く土俵際まで攻め寄せしに、敵も大事と一寸と堪えたれば、外掛けモタレ込まんとせし時体をかわしながらヒネリて嵐山の勝。
・平ノ戸に小錦は、左四ツ錦は無残に攻め付るを土俵際にて平外掛けで防がんとせしが、アビセて小錦の勝は是非もなし。
・真鶴に一ノ矢は、ヨり倒して一ノ矢の勝なりし。
梅雨に入ってしまったのでしょうか、６日ぶりの開場となりました。この日も何だか待ったでもめています。この頃の力士は主張が強くて行司や審判は大変ですね。勝負の方は大鳴門が新入幕響舛に敗れる波乱がありましたが、鞆ノ平は伸び盛りの千年川を下して古豪健在を見せつけました。
明治２２年夏場所星取表