○好角翁の力士評
・鼕々たる櫓太鼓の音色ひとたび八百八町に鳴り響きてより、大山を欺く裸男は日々回向院に集りて天下独歩の力技を闘わしつつあり、冬篭りなんど老人がりて火桶の下にうずくまり飽食暖衣する都人等は、すべからく且つ猛虎の怒嘯して天地を震駭すべき力士等がその機合して相うち相いどみ砂を蹴飛ばしつつ咆哮するを観て大いに尚武の気象を養うべきなり、某好角翁あり気魄極厚いささかも浮きたるを好まず、すこぶる角觝の勇ましく男らしき技なるを愛し、例年の大場所は更なり花相撲といえども必ず往きて観る癖あり、ついに好角翁と称せらるるに至れるが、この翁もっともこの社会に明るく一日社員の訪問せし節、次の如き力士評を試みられたり。
・荒鷲、竹生島、大崎、西郷、小武蔵などは今が芽出しの力士さね、体格も好い技倆も相応にある、修行を積めば有数の群に入れるだろう。
・見込みの無いのは、嵐山、鬼龍山、玉ヶ崎、最上山、小西川、利根川などさ、小相撲では大関の価値もあろうが先づ十両どまりの面々だよ。
・両國、勝平、御舟潟、金山の四人は幕下の愛嬌者だ、最早幕内へ昇進の見込は無いが道具としては必要さね。
・知恵ノ矢に鉞りかい、彼は双方退歩力士で誰も数に加えないから気の毒なものだ。
・常陸山に玉風、谷ノ川、松ノ風、岩木野といったような連中は幕内として恥かしからぬ力士だね、わけて常陸は幕内前頭二三枚、玉風は六七枚、岩木野は八九枚の価値がある、岩、松、谷は今一層大奮発をしなければ幕へ入っても久しくは居れぬて。
・鶴ヶ濱と境嶽だて、鶴は如何したやらこの頃悪い癖が付いたよ、というのはいやにこう立ちが悪くなったのだ、境はまだ病気が全快しないのだから評するのは酷だが両人とも将来に望みは無いな。
・唐辛と増田川は幕下へ下るだらうよ。
・高見山と黒岩と當り矢と若島の四名はいづれも互角の力士だが黒岩が一番人気がある、若島も大分回復した、高見は技倆が進んだよ、當り矢は少し退歩したようだ。
・大碇、北海、外ノ海、千年川等は二三場所休業の力士だがこの場所には珍しく技倆を示せた、碇は痩せたね昔の碇とは違う、北海と外ノ海は大分に稽古相撲で勉強したと見えて臨機応変の手がなかなか侮られない、何でも勉強だね、千年川は最初の具合ではとても勝星は覚束ないように思われたが、体の耐えといい出足も早く敵の張り手に屈しない気象は感心だ、いま一二枚昇るだろう。
・鬼ヶ谷、鬼鹿毛、大見崎の三人は居すわりの力士だ、谷も鹿毛もよく似た取り口だね、また大見は大した変化は見せないが三人とも活気がある。
・いや無器用なのは大蛇潟と高浪だろうよ両人とも力量は確かにあるが面白くない、高浪は近々年寄になるそうだね。
・可もなく不可もないのは越ヶ嶽に若湊だ。
・小松山と大纒は一時の全盛にも似ず昨今はカぬけの体ぢゃないか、男ぶりが好いからだとさ。
・相手の誰彼を選ばずよく働く感心な力士は狭布里と松ヶ関だ、必要な人物だよ。
・大入りを招く大道具、途方もない人気のあるのは云うも管だが梅ノ谷と荒岩と逆鉾だ、技倆は言わなくってもさねアハハハ。
・朝汐、海山、源氏山、谷ノ音の四人は幕内の四天王と評しておこうよ源氏と海山がやや不出来に見える理由を知ってるかい、あれはねこうだ海は酒に酔うて土俵へ上り源は一夜を徹して敵に向かうからだ、惜しいな。
・大戸平は昨今痩せたろう、あまり家事を心配するからだとね、しかしいつも引分を取るに妙を得ているは妙だ、老練だからね。
・大砲は相も変わらず肥っている力量も衰えない、捻りと腰を引きて足を防ぐに妙を得て居るが今二三年敵に対する必勝の手を覚えたなら大盤石だ。
・鳳凰は大関としては恥じない体格だが働きの無い力士さね、焦らぬから仕損じなどは無いよ。
・鳳凰と違ってよく仕損じのあるは小錦だ、あの人は敵の人気に呑まれ又はココデ是非勝負をなどと焦るから折々失敗してしまう、少し源氏のやうな気になったら天下敵なしだろうに惜しい事だ、それだから分けなどは滅多に取らない、滅多どころか昨年の五月場所に大砲と分を取っただけだ、察してやるべしだね。
英照皇太后の一周忌で大相撲も休業です。ここで相撲通の老人による力士評が入りました。口語のままの文体で幕下力士についても語られています。芽出しの五人衆は残念ながら出世できず、大崎は幕内に上がりましたが竹生島は幕下止まり。他の3人は十両止まりです。素質があっても怪我、病気、人間関係など、必ずしも順調に行くわけではありません。逆に見込み無しの鬼竜山は幕内に昇進、10年間地位を守ることになります。明治18年入幕の知恵ノ矢はずいぶん昔の力士のような感じがしますが、40歳を過ぎてまだ現役で頑張っていました。幕内力士に関しては辛口で斬りまくっていますが、源氏山などは豪放な性格で酒と女に溺れて稽古を怠り、小錦は小心で取りこぼしが多いというのは現在に伝わる評そのものです。
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こんにちわ。
いつの間にか更新再開してたんですね。
また貴重な記事を楽しみに待っています。
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そうなんです(・ω・)ノ
資料も熱意もあるのに時間だけが無い・・
という状況を打開して、時間を作っていけるように本気で考え始めました。
本当に思うようなペースで更新できるのはまだまだ先だと思いますが、末永く宜しくお願いします。
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こんばんは。
「好角翁」とはどのように解釈したらいいのでしょうか?
今で言う、杉山さんや内館さんのような方ですか?
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好角=相撲好き
翁=おじいさん
ということで、「観戦歴が長い相撲オタクじじい」でいいと思います(・ω・)ノ
この時代なら、幕末の不知火・鬼面山・陣幕あたりを生で見た好角翁がまだまだいたでしょう。稲ヅマや阿武松を見た人もひょっとしたら。
内館さんは男性じゃないのでちょっと違いますね・・・
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こんばんは。
相撲ヲタク爺さまですね!漢字そのまま!
今も昔も相撲を評論する相撲ヲタクがいる事がとても嬉しいです。
老後は「好角婆」を目指します。[絵文字:v-222]
解説ありがとうございます。