○回向院大相撲
・一昨十八日は九日目の上に日曜なれば前日に劣らざる上景気にて、徳川公、池田侯等の各貴族院議員方を見受けたり。
・大戸平に大蛇潟は、当日第一の取組なりとて一層人気付き力士も念入りて立上り、左四ツにつがい右をハヅに当て金剛力にてヨリ切り大戸平の勝は予想より見栄えなしと観客は呟けり。
・小天竜に外ノ海は、突出して小天竜の勝。
・楯甲に高浪は、楯左差し高はこれを引張り込み無造作に撓出して高浪の勝は意外なり。
・泉瀧に出羽ノ海は、右四ツ泉上手を引き出羽は直立となりて揉合い水入りてのち、再び一寸と体を動かし取疲れたりとて引分はツマラヌ相撲。
・達ノ矢に平ノ戸は、左四ツより合四ツにつがい平は引付けながら下手ナゲを打ちしが、敵は防ぎツツ反リ上手ナゲにて達ノ矢の勝は、達贔屓は満足満足。
・海山に今泉は、今左差し海は右をハヅに構え上手を引き海得意の出しナゲを打たん考えなるも、今はこれを推して少しも油断せず互いにヨレばヨリ返す、打てば打ち返すと種々取結び、水入りてのち揉合い取疲れて引分。
・谷ノ音に綾浪は、立上るやいな谷は勢い込んで引掛けしを預けツツヨリて綾浪の勝は、谷少しくあわてし様子なり。
・八幡山に西ノ海は、立上るや八幡は鋭く付入りて左を差さんと見せければ、西は引張り込んで例の泉川に極め付けんと乗り出すを八幡はこれを引払えり、敵はシナシタリと首ネジリに行きしが手強くはね除け手早く左差し、ヨリて八幡の勝は場内破るるばかりの喧擾八幡かかる技量を持ちながら小錦との立合は如何にも不活発なるが錦の技量に恐れてのゆえなるかと呟きし人ありしに、否々アレハ・・・・・・ソレ・・・・・・ナール程と溜りでの呟き咄し。
・野州山に知恵ノ矢は、カケ倒して知恵ノ矢の勝。
・大泉に立嵐は、右四ツにつがい立内ワクにてヨリ行くを、泉は大事と投げを打ちて防ぎたるもサマタビネリにて立嵐の勝。
・北海に高ノ戸は、立上り高蹴返したるが相手に残され今度はカブリてヅブネリを打つ積もりなりしも押え付けられ、一本背負いに抜け右四ツになり、ヨリツツ突放して北海の勝は是非なけれど高ノ戸の巧者なるは満場これを賞せざるはなし。
・朝汐に真力は、ナタでヨリ切り朝汐の勝。
・若湊に響升は、例の突張で難なく若湊の勝。
・小錦に鬼ヶ谷は、鬼勢いよく突掛るを突返さんと持込み来り、土俵際にて鋭く突出し小錦の勝にて打出したり。
大戸平(おおとひら)と大蛇潟(おろちがた)の一戦は十両同士ですが、ともに期待の新進力士として注目されていたようですね。大戸平はのち大関、大蛇潟も長く幕内を勤めることになります。この時点でも大戸平が強く、あっけない勝負となりました。八幡山は西ノ海の泉川を封じて見事に勝利、西の大関は大鳴門が引退して空きましたので翌場所の昇進は確実になりました。小錦とは毎回引き分けとなるようで、色々憶測が飛んでいます。平ノ戸は珍しい9戦全敗、相撲内容はよく奮闘していたのですが不名誉な記録となってしまいました。
明治24年春場所星取表