○大相撲
・去る二十五日に市中へ太鼓触れを廻し、翌二十六日より開場の筈なりし両国回向院境内の出世大相撲は、雨天のため延引し昨二十九日は曇天ながら初日を興行したるが、景気は天候に伴うて中位の見物なりし、さて例に依って当日の勝負及び幕内力士の取り口を左に記すべし。
・大蛇潟に鬼鹿毛は、双方念入に立上り鬼は合掌にて得意の足クセをかけ巻き倒さんとするを残し、大蛇は充分に左をさし巻き倒して大蛇の勝。
・大碇に雷山は、無造作に立上り突き倒して大碇の勝。
・若湊に鬼ヶ谷は、烈しく突き合ううち鬼危うかりしが、引っぱづして若の廻らんとするをすかさず送り出して鬼ヶ谷の勝。
・外ノ海に高千穂は、突き合い突き倒して外の勝。
・北海に大泉は、左をさし寄り倒して北海の勝。
・千年川に知恵ノ矢は、千年の突張るを知恵はタグリ込まんとするを渡し込んで千年の勝なりしが、この時千年は右の眼下を打ち負傷せり。
・響升と大戸崎は、春場所以来元気つきし大戸といい、殊に始めての顔触れなれば双方油断なく立上り、響が左を差し寄らんとするを大戸は敵の前袋を引き防ぎつつ寄らんとするうち取疲れ、水入後再びつがい大戸は右の上手を引き挑み合ううち引分となりしは大相撲。
・越ヶ嶽に司天龍は、越の左差しを司天は筈に当てシャニムニ寄らんとするを、越は土俵際にてウッチャリ団扇は越に上がりたれど越の体流れしとて物言付きて土俵預り、勝星は越ヶ嶽。
・西ノ海に平ノ戸は、立ち上るや泉川にて突放し西ノ海の勝。
・(中入後)芳ノ山に鞆ノ平は、鞆は右四ツにて寄り倒し鞆の勝。
・今泉に小天龍は、左四ツスクイ投にて見事に今泉の勝。
・大達に出羽ノ海は、達が例の中腰にて仕切り無造作に立ち上り、左四ツに渡り達はヒネらんとしばしば相撲を仕掛けたれど、出羽は一心に防ぎつつ水となり、再びつがい挑み合ううち引分。
・天津風に高ノ戸は、立ち上るや高が引き落さんとするを天津は残し突張て天津の勝。
・高浪に大砲は、砲一寸立ち後れしが高が突張るをハタキ込んで大砲の勝。
・響矢に谷ノ音は、合四ツに渡り谷は引き付け釣らんとするを響は防ぎつつ挑み合ううち水となり、二三合揉み合い引分。
・朝汐に鳳凰は、左四ツにて揉み合い鳳が引かんとするをスクイ投げにて朝汐の勝。
・大纒に大戸平は、双手さしにて釣り出し大戸の勝。
・行司木村庄太郎は廃業して更に角力年寄藤島甚助の名義を相続せり、力士のうち病気引込は幕の内にて小錦、八幡山、達ノ矢、小松山、音羽山の五名なれど、いずれも三日目もしくは四日目よりは出勤すべし。
悪天候も重なってようやく開幕の夏場所、今場所はどんな展開になるでしょうか。司天竜(してんりゅう)が西の新小結です。鶴ヶ濱と名乗って入幕したのが8年前、中堅力士として小錦に初黒星をつけるなど活躍していましたが、いま西方がやや弱いこともあって少しラッキーな昇進と言えるでしょうか。新入幕は4人ですが大戸崎が小結響舛と互角に渡り合って引き分け、評判は上り坂です。大事な新三役を全休した大砲は復活の白星。
明治26年夏場所星取表
東横綱・西ノ海嘉治郎