○力士拘引せらる
・年寄千賀の浦(大達の改名)の弟子宮の浦こと松岡由松(二十五)は去る二十八日徴兵忌避罪として東京地方裁判所へ拘引せられ目下鍛冶橋監獄に繋留中なるが、同人は明治十五年中石川県能美郡宇佐美村宇佐美の家を飛び出し爾来某鉱山の鉱夫を勤めたるのち、去る二十六年三月中を以て出京し大達の弟子となり、翌二十七年力士の鑑札を受け今度の大場所へも出勤せり、然るに原籍地にては同人の他行を以て徴兵忌避罪を犯せしものとし重禁錮一月罰金三円の宣告を言い渡し、爾来その踪跡をたづねおりし由にて、さてこそ今回の拘引とはなりけるなれ、されども同人はこの欠席裁判に対し不服の旨ありとて昨日故障を申し立てたり。
○相撲のかずかず
・西方幕下の毛谷村は、一月場所にほとんど全敗の悪成績を表したるに似ず、今度は首尾よく勝ち通し時事新報の賞牌をもらいたり、西方の土つかずは只この一力士あるのみ。
・小錦、朝汐両大関の一行は昨日出発にて横濱へ赴きぬ、同地打ち揚げの上は横須賀戻州各地を興行してひとまづ帰京し、来月十七八日頃より麹町区平河町天神境内に於いて八日間興行。
・鳳凰、大碇両大関の一行は木更津へ赴きて興行の後、今三十一日より駒込白山社内にて興行の大砲、谷ノ音両大関の一行と合併して愛宕下の花相撲を打ち、それより東海道地方を巡行す。(東京朝日新聞/5.31)
千秋楽の相撲内容についての記述は見あたらず、他紙より探して後日掲載とします。時事新報からの賞ですが幕内に限らず各段土付かずの力士に贈られていたようですね。さて宮の浦という下位力士が逮捕されていますが徴兵忌避罪とのことです。地元で行われた徴兵検査に出なかったという事なのでしょうか。鉱夫から力士に転向というのが時代を感じさせます。各力士は巡業に散り次の本場所は翌年1月、年6場所制に慣れた現代の感覚ではずいぶん間があき過ぎるような気がします。
明治29年夏場所星取表