・昨十五日(七日目)も相変わらず紳士及び各区消防組の総見物ありて場内余地なき大入なりし。
・雷ノ音に梅垣は、垣が元気にはね廻り過ぎて自ら踏み出し雷の勝となる。
・鉞りに淡路洋は、淡路が寄身に行くを鉞りが透かし淡路の腰砕け鉞の勝。
・御舟潟に嵐山は、嵐が撓め出さんとするを御舟は小手投にて見事に勝。
・勝平に玉風は、玉の付け入るを勝が潜りて足を取らんとせしも玉の矮駆なるため得意の手も利かず、玉はこれを外して逃げ廻るうち突きを極めたれど当らず、かえって勝に突出されて玉の負。
・黒岩に鶴ヶ濱は、いづれも出世角力にて面白き取り組みと思う間もなく黒は両差しにて釣出したり。
・松ヶ関に唐辛は、唐が強敵と見て十分注文をして立上り、片手車にて防ぎつつ片手内枠に行くと見せて松の右手を手繰り込み負い投げを打ちしを、松に否まれて極らぬまま反りての勝は好相撲。
・増田川に小天龍は、突合いてのち増田の張り手に小天は焦立ち、烈しく突出す鉄砲を増田が引き外す途端、小天は腰砕けて増田の勝。
・当り矢に高浪は、当りの左差し右筈にて押したるを高は堪えかね遂に押切られたり。
・大纒に大蛇潟は、大が纒の左差しを巻き左筈にて競り合ううち、大は押寄せられて危く見えしが辛くも寄り返して寄倒し、大の勝となりしは大出来。
・若湊に谷ノ音は、若の右差しを谷は右筈にて押切らんとし、若はよくこれを防ぎたれば谷は素早く右手を首に巻きつけ足癖を以て倒さんとせしに、かえって体の崩れてさきへ落ちしため団扇は谷に揚がりしも、物言いつき検査員にて評議の末預りとなりしが、行司木村瀬平は先に若が膝を突きたりと主張し遂に星は谷のものとなる。
・鳳凰に朝汐、朝の右差しを鳳は諸に差して寄り行き土俵際にて下手投を打ちたるに、朝はこれを堪えたのが仇となり鳳は朝の力を借りて見事に逆の上手投を行き鳳の勝となりぬ。
・小錦に海山は、錦の諸差しを海は左差しにてしばし挑みしのち、錦が押すため海は危く見えたるもやがて得意の合掌の代わりに右を巻き左差しをそのまま腋の下へ繰り上げて片捻りをきめしため、錦の体は横ざまに捻り倒されたり、この時満場大々喝釆。
・(中入後)横車に鬼鹿毛は、横が例の釣り出しを掛ける間もなく鬼は右差しを抜き替えて首投を行き勝を占めたり、是れ本人得意の手なり。
・岩木野に梅ヶ崎、梅の右四ツを岩は諸差しにて競り合い、次いで梅の寄るを岩は危く残して棄て身に行き勝となる、この時場中大喝采。
・雷山に荒岩は、雷の右四ツを荒は左差しにて行きて下手投を打ち、雷はこれを残したれどこの時すでに体浮き立ちしを見て荒はすぐに廻り込み、遂に突出して勝を占めたり。
梅ノ谷を破った勝平は玉風と対戦、玉風も後に三役に定着する名力士、太ってはいますが背が低いため勝平が取りにくそうです。それでも勝ち切って名物十両力士の面目躍如。幕尻同士の対戦は唐辛、一本背負いに行って決まらないため後ろもたれで勝つとは何とも自由自在な取り口です。不調で存在感の薄れていた谷ノ音は得意の河津掛けがかろうじて決まり3勝目。絶好調海山はとうとう小錦も倒して大関級の強さを見せつけます。小錦は3敗目となり入幕以来かつてない不成績となってしまいました。
明治30年春場所星取表