○回向院大相撲
・昨七日、ニ日目は朝来の陰雲さらに晴れず、今にも六出霏々として降り来るべき模様なれば、観客の足取り如何あるべきと思いしにも似ず正午頃より蒼空の見ゆるにつれ陸続入場する来客ありて前日に劣らざる景気となりたり。
・鶴ノ音に利根川は、突合い鶴のハタキに利根泳ぎながら付け入りたれば鶴の体土俵を割り負となる。
・鳴門龍に両國は、下手に突き入りて龍の下を防ぐ鼻を、頭捻りに行きしが反られて効かず、却って鳴の頭捻り極まりて鳴の勝は力の優りしによる。
・勝平に谷ノ川は、例の手先にてあしらい足取りに行かんとするを、谷は突掛け切らんと進む、勝素早く体をかわしてすかさず早くハタキ込んでの勝は、勝の大得意。
・松ノ風に常陸山は、常陸の呼声に迎えられつつ両力士とも土俵に上り、松は念入りに仕切りたるが常は三分も土俵を譲りて仕切り、やがて立ち上るや否や苦もなく撓め出して常の勝、この場所怪我負なくば全勝疑いなし。
・甲に熊ヶ嶽は、熊の左差しを甲上より襷に取って持ち出したるは段違いの働きなり。
・稲瀬川に岩戸川は、無造作に押切って稲の勝、初日の失敗を漸く取返したり。
・唐辛に岩木野は、唐堅くなりて容易に立たず、やがて立つや否岩は右四つになり唐が左を差さんと注文中すぐ引落として岩の勝は呆気なし。
・小松山に高見山は、二三度突き合い松の釣りを高は右外掛にて防ぎつつ土俵際にて棄て身に行きしが、すでに高の体はなき後なりしとて松へ団扇上がりしも、物言い付きて丸預となる。
・鬼鹿毛に狭布ノ里は、鬼例の片合掌にて捻らんと焦るを、京は左差しに右を当て防ぎしが、鬼は満身の力を極めて振りたるに敵し難くアワヤ西溜りの隅へ投げ付けられんとする一刹那、京は右足を働かせし二丁掛け甘くも極まりて鬼は反対に打負かさる、鬼の涙とはこの事を言うらん。
・松ヶ関に外ノ海は、松の出鼻を外は一寸松の両腋に当てつつ押すを、松は差し手を伸ばして取らんとする力の入りし呼吸を計り引落して外の勝は綺麗。
・大碇に玉風は、玉の元気と碇の久々振りとにて観客は脇眼もふらず見詰めるうち、両力士突き合い碇は釣って持ち出すを、玉は耐えつつ体を落して下手投げ極りて見事に勝を占む。
・鬼ヶ谷に若湊は、突合い鬼の懐に入らんと狙うも、嫌わず突き出して若の勝は回復著し。
・荒岩に大蛇潟は、立ち上り荒ハタキたるが敵は大兵、よく泳ぎたるも組み付くが早いか掬って蛇の体は横に臥す。
・不知火に朝汐は、手練の不知も相手は東の剛者、足を取って返さんとすれど朝はウンと踏み耐え上よりミツを取って上手に捻りたれば不知はたちまちコロリとなる。
・鳳凰に大見崎は、大見の突き手を手繰って泉川に掛け、苦もなく土俵外へ撓め出したり。
・中入後、境嶽に八剣は、八得意の釣りに行き境の体は浮き出したるが、踏切りありて物言いの末丸預り。
・鶴ヶ濱に金山は、鶴の逆捻りに金山の負け。
幕下の常陸山は十両上位との対戦を物ともせず、怪我負けつまり不覚さえ取らなければ全勝との記者の見込みです。東西新小結や梅ノ谷など新しいスターが顔を揃えてきて観客の人気も上々のようですね。元大関の大碇、京都相撲へ脱走していましたが1年半ぶりの復帰。番付外なので通例に従い2日目からの登場です。注目を浴びる中で攻め込みましたが十両玉風に負け、往年の力は戻っていないようです。
明治31年春場所星取表