○回向院大相撲
・昨十七日(五日目)は天気予報も面白からぬ兆候を示されたるが、人気力士の好取組多きため空模様を顧みず好角家は午前よりひしひしと詰掛け、特別席を除くの外は立錐の地なき好景気にてありし。
・岩戸川に嵐山は、嵐の右差にて苦もなく押し切り嵐の勝は岩戸近来技量の劣りしに依る。
・高千穂に甲岩は、高の左を泉川に撓めしも効かず解かれて片閂に絞りしも、高は右前袋を引きて放たぬより、甲は閂に懸けて絞るも高は耐えて隙を計り、引落し旨く決まって高の勝。
・待乳山に立嵐は左四ツに渡り合い暫し挑みしが、待は大得意の三所詰めにて待の勝は今日が初めてなりし。
・有明に松ノ風は、有の元気に反し松は近頃愛せられ過ぎて力量の抜けし際なれば勝負如何と見る間に流石は松の抜量、有の諸筈を透かしたれど残りしよりハタキ込んで松の勝ちは先づ狂いなし。
・利根川に淡路洋は、突合い突出して淡の勝は上出来。
・谷ノ川に緑川は、手先の競り合いより緑左筈にて押切り緑の勝は、谷少時立ち後れたるにもせよ余り脆し。
・鳴門龍に鶴ヶ濱は、鳴前日の大手柄の矢先元気至ってよく立ち向いしが、鶴の技量には未だ及ばざるか鳴の左差しを鶴は巻きつつ下手投げにて鶴の勝。
・増田川に天津風は、突き合いの一点にて増の激しく突掛けるを透かしたれば、増の足流れて砂上に伏す。
・大見崎に一力は、突き合い叫びの声諸共大見の体は土俵外にありて相撲にならず。
・大蛇潟に不知火は、大は左差しに右を当てれば不知は右を首に巻き倒さんとするも、大は上よりアビセたれば不知火は支える力なく腰砕け敗を取る。
・越ヶ嶽に横車は、突合い横は左四ツにて釣ると見えしが腰投げにて横の勝。
・鬼ヶ谷に當り矢は、鬼に痛所ありて休。
・千年川に荒岩は、突き出し荒の勝は取らずとも知る。
・朝汐に梅ノ谷は、一月場所にて敗を取りし其の回復をせんと梅は念を入れ隙なく立ち上り、左四ツにて右前袋を引きて釣らんと寄り身に行くを、朝は焦立ち右上手にてミツを取らんとするも、振って取らせぬに朝は勝手悪しく差し替え秘術を施さんとする間に、梅は満身の力にて釣り出し梅の勝は満場の大喝采暫し鳴りも鎮まらざりし。
・小錦に谷ノ音は、立ち上り錦の出鼻を谷は例の蛙掛にて巻きたるを錦も耐うれば、廻り込まれて見苦しき敗を取らんを慮りてアビセ掛けたれば谷と同体に流れ谷の方早く落ちたりとて錦に団扇を揚げたるより、物言い付きて預りとなり星は五分五分なれど、谷の方仕掛けたるが勝と見て可なり。
・(中入後)甲に鬼竜山は左四ツ、甲は寄り切り勝を占む。
・岩木野に小天龍は、小天の左差しを岩は巻き左咽輪に懸け、小手掛を試みしが効かず、小天もまた出し投げに行くも効かぬより岩は蹴返しを見しも又効かず、競り合ううち小天に痛所ありて引分となりしは中々の相撲にてありし。
十両で土付かずの松ノ風、人気に溺れているらしいですが(笑)力量はあるようで全勝キープ。同じく十両の鳴門龍は前日は前頭5枚目の越ヶ嶽を破って勢い付いていましたが新入幕の鶴ヶ濱に完敗、鶴ヶ濱は幕内初白星。先場所復帰した一力は気合相撲、復調してきたようで快勝でした。好取組は新大関朝汐と梅ノ谷の一戦、元気者同士でしたが若い梅ノ谷がマワシを取らせない技術も見せつつ豪快な吊りでの勝利でした。
明治31年夏場所星取表
東前頭10・増田川牛之助、東前頭11・北海大太郎