○回向院大相撲
・昨二十二日(七日目)は快晴に加えて日曜日なりしに貴顕紳士の来観ことに多く、桟敷は午前九時に売切れとなり正午頃には木戸も客止めとなりし好景気にてありし。
・司天龍に甲岩は、司諸筈にて押すを甲は耐えて寄り返すを、透かさず押倒して司天の勝。
・緑川に栄鶴は、激しく突き合い栄右を差せば緑上手に巻きたるまま小競り合にて、仕掛けは損ぢゃと木偶となって引分。
・鉞りに有明は、立上り鉞りは有の左手を取って引掛ける、有は外さんとして引くを任せて鉞りの勝なりしが、有は土俵の詰にて捻りたれど鉞りに踏切りあると有に団扇を上げしが、物言いとなり検査員八角は踏切りなしと主張し、預となって星は平。
・岩戸川に御舟潟、この一番は取らずもがなとの悪評さえありしが、岩左を取りハタキて手繰り込み岩戸の勝は筆を労する価値なし。
・高千穂に磯千鳥は、右四ツにて左は殺し合い、磯は下手なれば仕掛れば仕掛も出来れど高は体を落し居れば磯も体を伸ばして、互いに敵の仕掛を待ちたるまま取疲れ引分は興味なし。
・利根川に待乳山は、待突かれながら飛び入り下手を取って頭捻りに行きしが、付け入られかえって踏切りありて利に星を奪わる、元の勝平なれば粘りありて斯くは負けまじきに。
・谷ノ川に鳴門龍は、左四ツに渡り鳴懐に入りて押し切らんとするを、谷が一寸逡巡したれば鳴右足を運ぶ間なく足の流れを捻って谷の勝は鳴の不覚なり。
・岩木野に一力は、突き合い一はハタキで岩の腰砕けんとするを透かさず突きて一力の勝は瞬間の争いなりし。
・甲に鶴ヶ濱は、立ち上り鶴は左差しにて強く引き寄せ右を当てて寄るより、流石の甲も手腕を伸ばす能わず力の入らずして敗を取りしは時の運と断念すべし。
・増田川に稲瀬川は、突きの一点にて稲突き勝ち増土俵より出づ。
・北海に鬼鹿毛は此の社会の顧問官、北は左を差し右筈にて強く寄れば鬼耐える力なくして北の勝は相角力。
・大蛇潟に小松山は、左四つより解れて大は小の左を片閂に絞りて寄るを、小は詰めを渡して防ぎしが、寄り倒されて小の負は心に省みる所あるべし。
・若湊に常陸山は常の人気ますます加わり、若の勝は突きの一点にて、外せば必ず常の勝とは衆評にてありし如く、若は二度の突きにも常は踏み耐えしより透かさず若は左差しの右筈にて寄るも動かずして寄り返す出鼻をハタキたれど効かず、常は左充分に差して寄りたるに若はたちまち踏切って常の勝は大喝采にてありたるが、若もよく角力いて常にも危うき所見えたり。
・朝汐に荒岩は当日の呼びものにて、観客は固唾を飲み二力士は水を飲んで清く立ち上がり、右の相四ツにて挑む間もなく朝は上手投を打ち、残るを寄って朝の勝は荒別に手練を施す隙なくして負けは案外なりし。
・(中入後)金山に嶽ノ越は相角力にて、金の左差しを嶽は巻き左筈に当てて金右に二の腕を取りて後手に防ぎしが、解れて突き合い金はハタキて残りしが嶽の体据わらぬ隙に押切りて金の勝は興あり。
・松ノ風に小天龍は、手先競り合いより手四ツ片手車にて暫し挑み、やがて松の左四ツにて腰投を見せたれど小天残して打返すを又残され、体の軽きに二本にて釣り身にアビセられ棄て身に行く間なく小天の負け。
前日に黒星を喫した横綱小錦が休場してしまいましたが、会場は大入りです。幕内を務めたこともある鉞り(まさかり)は幕下に下がりましたが元気に出場しています。きわどい相撲でしたが預かり。ビデオも取り直しも無いこの時代、物言いがつくとほぼ預かりということで収められてしまいます。実際には有利だった力士には内部的に白星扱いとして昇進や給金に影響したそうですが、この一番は「平」ということで両者互角の半星ずつです。常陸山は十両力士ながら7日間すべて幕内力士との対戦。ベテラン若湊との取組は若湊の活躍で動きのある良い相撲でしたが、最後は常陸山が寄り切り、これで7連勝。前頭上位や三役経験者も含め次々となぎ倒しています。止めるのは誰なのか・・・朝汐と荒岩は気鋭の大関vs関脇戦、ここは速攻がうまく行って大関が貫禄を示しました。
明治31年夏場所星取表