○回向院大相撲
・昨二十四日(九日目)は朝来の曇天にて、前日の大入に引かえ客足なかりしが、好角家は相変わらず来観せるも多し。
・大戸川に嵐山は、内無双にて渡し込み大戸勝。
・緑川に錦山は、錦いまだ土付かず緑の二本差しを片閂に絞りて寄倒したり。
・鉞りに磯千鳥は、磯立ち鼻を張ったるも鉞は屈せず、左を差し右上手に取って寄倒して鉞の勝。
・岩戸川に立嵐は、岩の左差しを立は巻き左は殺し合いて暫し挑みしが、やがて立の小手投げ決まりて岩の負け。
・高千穂に有明は、左四ツにて高投げを打ちしも効かず、かえって寄切られて高の負け。
・國見山に松ノ風は幕下の好取組、右四ツより左四ツとなり國一度投げを試み松は釣り身に行くも相手は体に伸びありて効かず、少時揉み合いしが遂に國の上手投げ見事に決まりて國の勝は大相撲にてありし。
・成瀬川に鳴門龍は、突合い左を取って引落し鳴の勝は大出来。
・甲に利根川は、突き合い突き倒して甲の勝。
・谷ノ川に小天龍は、突出し谷の勝は一字を記す時間もなし。
・岩木野に稲瀬川は左四つにて挑み、やがて岩は右を抜きて首に巻き内掛にて巻き倒し岩の勝は綺麗。
・北海に一力は突き合い一の張り手に北は苛立ちて、すきなく突き出し左を差し込みすぐ寄り切って北の勝。
・響升に鶴ヶ濱は、今日の足取り早き各勝負の中にてこの一番は鶴の待った数回と響の待った数回都合合わして十二三遍のマッタにてようやく立ち上り、右より左四つに変じまた響は左筈に右を差し一寸足癖に行きたるも、鶴の耐えに響は効かずして早くも左差しにて押切るを、棄て身に鶴に団扇の上がりしが、棄て身の決まりし時は早や鶴に体がなきとて預りとなり、星は五分五分。
・黒岩に谷ノ音は、立ち上りがったり相四ツとなるや黒は得意の釣り身に行きて谷の体一尺程地を離れしが、此方も得意の登り掛けには具合よく直に右内掛けにて巻倒し谷の勝は得意の鉢合せにて面白し。
・源氏山に小松山は左四ツより相四ツとなり、小松も大事に取るよと見えしが源には劣りて振り出されしは是非もなし。
・若湊に荒岩は荒サアコイと構える、若もなんだと大喝一声ヨイショと怒鳴れば荒はブルブル取らぬ先から観客を笑わせしが、立ち上り荒はハタキたれど若泳ぎて残し、出直す鼻を例の蹴手繰りに若の両手砂に印す。
・朝汐に鳳凰は、鳳立ち上り飛び違いにはたきて左四ツとなり、朝は右上手廻しを取り鳳は二本を差して東溜の隅へ寄り切らんと進むに、朝も耐え得ず土俵の詰に三分を余したる実に危うき場合なりしが、朝の巧者はここにて左足をすくめて腰を廻したれば鳳は我が身の力にて寄倒れて敗を取りしは今日中の大相撲にてありし。
・中入後、小武蔵に鶴ノ音は小の一本背負潰れて鶴の勝。
幕内最終日の九日目です。元関脇の谷ノ音は平幕に下がっていますが得意の足技は健在、元気な黒岩が吊りにくるところを内掛けで仕留めました。谷ノ音の足技はからみついて一緒に倒れこむ体勢になることが多いため預かりが多くなるのが特徴ですが、この日はきれいに決まりました。荒岩も勝って6勝目の好成績、大関級の実力がいよいよ発揮されて昇進も近いかという印象です。それにしても相手の気合に対して大袈裟に怖がるふりをして笑いを取るようなユーモアがあるとは意外でした。大関同士はいい勝負でしたが逆転で朝汐。この取組は中入り前の結びで、中入り後は幕下~幕内の残り半分が行われているのですが、紙面の欄外に掲載されていたため縮刷版では残念ながら読むことが出来ません。
明治31年夏場所星取表