・昨日回向院の五日目の相撲は観客およそ四千人、日に増し上景気なり。
・(中入前)荒飛に伊勢ノ濱は伊勢ノ濱の勝、竜ヶ鼻に忍川は忍川の勝、立田野に中津山は中津山得意に敵を「かぶらん」とせしが「潰れて」立田野の勝、柏戸に勝ノ浦は休み。
・大鳴門に磯風は諸人待ち設けの相撲なれば、名乗の上がるや場内は喝采の声にて割るるばかりなりし、やがて両力士は仕切も見事に立上り二ツ三ツ突掛け合ううち大鳴門は右を差しなおも左を差さんとするにぞ、磯風は差されし敵の右を巻き左手を一心に殺して暫く土俵の真中に突立ちしが、大鳴門は始終相撲を仕掛け揉みながら差し手を抜きて手を換えんとするを、磯風はそうはさせじと振払い今度は小手先にて突張り合いつつ、互いに大事を取るうち取り疲れて水となり、再び取組しが又もとの如くにてついに引分とは惜しき事なり。
・高見山に関ノ戸は水となり、関ノ戸に真の痛みありて引分。
・梅ヶ谷に清見潟は念入りて立上り、清見潟より突掛け行くを「首捻り」に掛けられて体前に流れ梅ヶ谷の勝。
・(中入後)長山に九紋竜は水となり、再び取組しもついに引分。
・出来山に井筒は気合よく立上り、出来山は右を差し井筒はこれに「泉川」を掛けて極めんとするも出来山は其のままジリジリ寄り来れば、井筒は一生懸命「足クセ」を巻きて「ヒネリ」しに出来山の体流れて井筒の勝。
・上ヶ汐に稲ノ花は、案外早く決まり稲ノ花は踏切りて上ヶ汐の勝。
・緋縅に常陸山は、常陸山しきりに敵を「堅く」せんと立上りざま緋縅に「はたき」を呉れながら荒れて立ちたるに、緋縅はちょっと立ち後れしと見えたるが、敵の立上り無礼なるより「堅く」なり、其のまま敵を引き受け二ツ三ツ突掛け合いしが、押切りて緋縅の勝。
・浦風に高千穂は花々しく立ち上り、高千穂は見る見る両差しとなりしに是非なく浦風は両手「閂」を掛け、揉んで揉み抜きしが、高千穂は思いあり気に両手を抜きつつ一心に突張りて押切り、高千穂の勝。
・鞆ノ平に西ノ海は是れぞ当日一の組合せなれば人々脇目も振らで見てありしに、双方相撲を大事になしちょっとは立たざりしが、ようやくに立上り暫時手と手に渡り合いしが、鞆ノ平は左を十分に差し西ノ海は一心不乱に此の左手を上手に巻いて防ぐうち、鞆ノ平は又もや無二無三に右を差して敵の「左ミツ」を取りしかば、ヤアとばかりに観客は西ノ海の危うきを推しはかりてぞ鳴り渡りぬ、さても西ノ海は其のままタジタジと押されて土俵際に近づきしが、遮に無に左手を敵の体にコジ入れしと見るより「スクイ投げ」を呉れしに、鞆ノ平の体土俵外に流れ見事に西ノ海の勝となりしは感服の至りにて喝采の声場を動かせり。
・千羽ヶ嶽に手柄山は難なく立上りしが、手柄山は立上りながら相手を「矢ハヅ」にて押切り手柄山の勝はお手柄お手柄。
相手を堅くするという言葉が出てきますが、立ち合いに牽制して相手に色々考えさせる、あるいはじらして冷静さを失わせるなどといったところでしょうか。磯風は白星はまだありませんが大鳴門とも渡り合い、実力は結構あったようですね。西方の上位陣が休場していますが熱戦も多く、観客なかなか集まっています。ここまで梅ヶ谷がただ一人の5連勝。
明治16年春場所星取表