○回向院大相撲
・昨日回向院三日日の相撲はすこぶる大入にして、その米田氏も出場し其の他貴顕紳士の来場少なからず、されどまだ日の浅きゆえか谷斉坊のあらわれず、手柄相撲のためには何分不足の様に見えたり。
・(中入前)田上山は浪渡りに、播磨洋は天拝山に、忍嶽は獅子ヶ嶽に、大綱は浦ノ海に、藤ノ森は相川に、鷲ノ森は司雲竜に勝。
・神風に小金山は預り、鳥ノ海は國ノ花に勝、毛谷村は宮ノ松をスクイ投げ、泉川は若木野を押切り、山ノ音は寄て藤ヶ枝に、若湊も同じく寄て常陸川に勝。
・藤田川は岩ノ里を押切て勝、菊ヶ濱に頂は預り、綾浪は櫓に掛けて藤ノ戸に勝、平ノ戸は三日月(西京の十両取にて今度梅ヶ谷の門人となりし者)を釣出し、朝日嶽は寄て千勝森に、増位山は同じく寄て入間川に勝。
・嵐山に八幡山は、双方取れる若相撲の事なれば観客の気入すこぶるよく皆待ちもだえたり、さて力士は仕切十分に立上り突掛け、まづ嵐山の右を八幡山が引張り込まんとする時嵐山は振払いざま突張て勝。
・知恵ノ矢に鶴ヶ濱も気入り十分の相撲にして念入て立上り、ややありて立ち左四ツとなり知恵ノ矢は上手を引き、鶴は下を引きつつ揉合いて土俵を廻るうちにツイ鶴ヶ濱に踏切のありとは双方知らず、尚も揉まんとなしける時行司は勝負ありしと心付け、知恵ノ矢の勝は上出来。
・上ヶ汐に千羽ヶ嶽は、左を差して上ヶ汐は得意のカワズに引きたればコレデハ千羽が危うしと思うに、千羽ヶ嶽は一心に防ぎつつ上よりモタレテ堪ゆるにぞ、ついに上ヶ汐はツブレテ千羽の勝もよし。
・手柄山に高千穂は、一本ジョイにて見事高千穂の勝。
・剣山に緋縅は、一度突掛けまた突掛ける緋縅を剣がハタケば緋流れて剣の勝。
・さて其の次は綾瀬川に大達の取組なり、そも大達は横綱の梅を極めてより今は天下に敵なしぞと人々も言い囃し本年客座の大関にまで昇進したる剛の者、相手はまだ坂地より出京の日も浅きのみか人も知らざる綾瀬川(元大坂の前頭、同地年寄枝川の門人)なり、されば是は相撲にならぬと最初より観客はまず大達の勝ならんとは誰が心も同じかりし、両力士は形の如くに仕切つつ、大達が立たんとすれば綾瀬川がマッタをいい綾瀬が立てば大達が間にはマッタを言いたるも、綾瀬は心に大事の相撲、万一勝ちを得たならば後日の出世はいう迄もなく師匠梅ヶ谷の面目にもなる事と、たやすくは立たざりしが辛うじて立上り、綾瀬川が左を差せば大達も心得たりと左を差し四ツとなりつつ、大達が寄れば綾瀬は後づさりためらいて又寄り行き揉合ううちも、大達がスクイ投げんとなせし時綾瀬の体の危うく見えハッと気遣う観客の心の内、勝を得ぬは詮方なくもせめては大相撲を取らして見たしと思うあれば、早く大達が決めればよいと思い思いの了簡もまた一苦労とや申すべし、兎角するうち大達は差し手にカを入れつつもスクイ投げんと金剛力攻め立てる折こそあれ、綾瀬川は心得て左差し手にミツを引き右上手をハヅに構え、一際ひどく突落せば流石名代の大達も突落されて体流れ、綾瀬川の勝となればややとばかりに数千の観客拍手喝釆鳴り渡り、場内割るる如くなりし。
・梅ヶ谷に廣ノ海は大相撲となり、廣ノ海は一生懸命首投げ一方を望みたりしが、梅ヶ谷はついに両ミツを引き、寄て勝。
・(中入後)九紋竜は達ヶ関を突張り、出釈迦山は浦湊を持出して勝。
・柏戸に清見潟はツッパラれて柏戸が後づさる所を続いて押切り勝を得し所は清見の功者ならん。
・伊勢ノ濱に常陸山は押切て常陸山の勝。
・鞆ノ平に一ノ矢は、一ノ矢が首投に行く所を鞆は二本差し櫓に掛て勝。
・浦風に高見山は浦風がハレば高見も返報し、小手先にせり合い突掛るうち高見は突張て勝。
・大鳴門に海山は、タメ出さんと大鳴門の右を海山泉川に極めせしも、大鳴門が寄り来るに堪えず踏切り大鳴門の勝。
・友綱に西ノ海は、雑作もなく押切て西ノ海の勝なりき。
○宿禰神社、祭典相撲
・昨年十月九日の紙上に記せし本所緑町旧津軽邸跡へ野見宿禰神社建立の挙は、寄付金集まり次第漸次着手する趣にて、同町高砂浦五郎宅を以て当分該建立事務所と定め、役員には監督一名幹事八名筆者数名(臨時雇い入るる事とす)を置き幹事中より三名の委員を選び平常事務を負担せしむる事とし、監督は五條為栄君、幹事は伊勢ノ海五太夫、大嶽門左衛門、高砂浦五郎、梅ヶ谷藤太郎、根岸治三郎、藤島甚助、境川浪右衛門、甲山力蔵、委員に高砂浦五郎、梅ヶ谷藤太郎、根岸治三郎とし、全て無給にて勤むる事とし、寄付金(神社建立に係る寄付金を云う)及び相撲講中組合金(相撲縦覧講中に加わり縦覧証を受くる者より出す金を云う)は建築等の費用に供し、其の他は全て確実なる銀行等へ定期又は当座預けとし当用払金の他は事務所に留め置かざる事とする由、また寄付金を出したる人々へは出金の多少に従い一日或いは数日相撲を縦覧せしむると云う、また同社内相撲場にて春夏両度晴天四日ずつ相撲を興行し、この日限中各一日ずつは寄付興行日と定め、収入金を折半して一半を神社維持金とし一半を祭典費とし、かつ此の相撲縦覧組合講中を募り、此の組合は永年施行すべきも差し当たり第一期を三ヶ年とし一ヶ年の掛金上等は金一円、下等は金三十銭と定め、一ヶ年に付き二日分の縦覧証券二葉を交付し、上等講中見物の場所は桟敷とし下等講中見物の場所は土間とし、上等は各案内人を出し茶たばこ盆を出す事とする由、該証券交付の個所は本日の広告欄内に詳なり。
米田さんは明治天皇の侍従の人かと思いますが、谷斉坊は誰でしょう。常連おやじでしょうか。大阪相撲から加入の綾瀬川と知恵ノ矢が二日目から出場しているわけですが、なんと大達が喰われてしまいました。なかなかの番狂わせです。横綱梅ヶ谷は元々大阪相撲の力士だったので、大阪から来る力士は梅ヶ谷を頼ってその弟子になることが多いです。それにしても宿禰神社の記事はやたらに細かい(;・ω・)相撲専門誌かと思うくらいですが、年間1円の寄付で花相撲ではありますが桟敷を用意されて見に行く、悪くないですね。1円は今の4000~10000円くらいでしょう。ペアチケット2日分ですが、何より会員として優遇されるのが気分良さそうです。
明治18年春場所星取表