○大相撲の番付
・明十一日より開場する回向院五月場所大相撲の番付は他社に率先して昨日の欄外にその確定したるものを掲載せしが、今また観客の便利をはかり本年一月場所の番付を出して対照すればすなわち左の如し。
○相撲のかずかず
・昨日の欄外に記載せし五月場所大相撲の番付を見る者は必ずまづ第一にその名前の見えざるに注意を引くべき東の大関西ノ海嘉次郎は、いよいよ今度土俵を退く事になりたるが、同人は高砂の部屋にて久しく勤労をなし小錦、朝汐、源氏山その他の大相撲を養成するほどの大功を奏し、これがため高砂の門派をして相撲社会に跳梁せしむるを得たる元勲者にして、今なお横綱大関小錦を稽古にかけては子供の如くに取りあつかうほどの勇気あり、力士養成の上においては実に欠くべからざる必要の人物なれば、高砂も決してこれを粗略にせず自今自分の部屋の大隠居として門派力士の稽古を一任する事に決したるよし、また地方興行の節は西の大関として小錦に対峙せしむる筈なりと。
・楯甲は西方有数の力士なるに、負債のために世へ出られず今度の場所へも既に出勤しがたき場合に立ち至りしを、或る人が気の毒に思い目下負債償却の方法を廻らしおれば多分欠勤せざるべし。
・横綱小錦は一昨日靖国神社の土俵にて初めて横綱を張るにつき、あらかじめ西ノ海の指図を受けしきりに稽古をしておりしが、なにぶん背は低し、かかる事には無頓着の性質なり、もししくじらねばよいがと人々密かに心配せしに、流石は大剛の小錦なり、おめず憶せず土俵へあらわれ見事に古式を行い得たれば人々初めて安堵の胸をさすりしよし。
・昨日欄外の番付にありし通り、今泉は師匠の名を継いで「源氏山」と改名し東の小結へ飛上りぬ。
・一月場所には東の力士に病気引き多く、且つ出勤の力士は不元気にて西との権衡保ち難かりしが、今度は日の出の鳳凰が東へ廻りしのみならず朝汐、源氏山、若嶋、逆鉾、当り矢、横車などは幕内で腕を鳴らし、幕下には松ヶ関、高見山、鶴ヶ濱、万力、梅ノ谷という若手の強者威を揮えば少しも引けは取らざるべし、これに反し西方はまづ大関の大戸平が病気と称して出勤せず、幕内では谷ノ音、小松山、梅ヶ崎、楯甲の四人、幕下では荒岩、両國、松ノ風、稲瀬川の四人が元気よきのみ、その他はいづれも頼もしからず、ただ面白きは大碇の持ち直しと清国より帰朝したる高ノ戸大五郎が付出しとなりて出勤するとの二ツなり、されどもまんざら権衡が取れぬというにはあらざるべし。
・人の噂にては、鳳凰は今度の相撲にも勝越して来春は西の大関へ据わるべしといえり。
○幕内力士の給金
・新番付にて改まりたる幕内力士の給金は左の如し。
東の方
小 錦(四十四円)
鳳 凰(二十一円七十五銭)
朝 汐(三十五円七十五銭)
源氏山(十八円二十五銭)
千年川(二十二円)
越ヶ嶽(十三円)
北 海(十八円)
天津風(十二円五十銭)
若 湊(二十七円二十五銭)
響 升(二十二円五十銭)
若 嶋(十四円)
外ノ海(十八円五十銭)
玉 龍(十三円)
高 浪(十四円七十五銭)
出羽ノ海(二十二円二十五銭)
逆 鉾(十二円五十銭)
当り矢(十二円)
横 車(十一円)
西の方
大戸平(三十四円)
谷ノ音(二十一円七十五銭)
大 碇(二十二円五十銭)
大 砲(十八円二十五銭)
海 山(十六円五十銭)
小松山(十二円)
鬼ヶ谷(二十二円五十銭)
大 纒(十七円五十銭)
大蛇潟(十九円二十五銭)
一 力(十一円)
楯 甲(十一円五十銭)
不知火(十三円五十銭)
梅ヶ崎(十円五十銭)
狭布ノ里(十一円)
鬼鹿毛(十四円五十銭)
小天龍(十円七十五銭)
唐 辛(十一円)
高ノ戸(未定)(5.12)
新番付ですが、横綱がまず入れ替わり西ノ海は高砂部屋の部屋付きとして指導にあたることに、小錦は初の土俵入り披露を無事終えたようです。鳳凰が東へ廻って関脇に躍進、脂の乗りきった時期で大関目前の呼び声が高いです。前場所勝ち越した大碇は張出関脇、先場所から大関の肩書きを剥奪されてはいたものの、厳しく降格された感があります。朝汐と並んで張出関脇2人というのは史上初の編成です。今泉が源氏山(げんじやま)と改名して新小結、東は休場力士が多かったためラッキーな昇進です。記事にもあるように従軍から帰還した高ノ戸は2年ぶりに番付に載りました。給金も発表されていますが小錦がトップで朝汐と大戸平が続くのは妥当なところ、積み上げ式のため年功がモノを言います。出羽ノ海は相当なベテランですがそれほど勝ち越してないせいか随分安く収まっている感じがします。元関脇で長く頑張っている若湊も平幕では高い方です。