○郷友会の相撲
・昨日は鹿児島県人諸氏が回向院の相撲場に於て郷友会を催し、例年の通り角觝取組ありたり、当日来会せしは島津君及び同県出身の貴顕紳士、其の他米田侍従、芳川府知事等、招待に応じて参られし人々ともおよそ三千余人にして、相撲取組五十二組特別十六組を催したり。
・平の戸に白梅は血気の力士、花々しく立上り突掛け「左四ツ」となりて揉抜き、白梅は右に上手を引き土俵際にて「出シ投ゲ」て勝、其の次は右四ツにて鶴ヶ濱の寄るを蹴返して二番とも丸く勝を得たり。
・(以下一番勝負)増位山に綾浪は、「左四ツ」にて増位が遮に無に寄り綾浪は土俵あとなかりし時、ウンと堪え櫓に掛けて打チャリしは実に大きな取口にて皆々感服せり。
・伊勢ノ海に立田野は、立田野がカブランとする勢を伊勢は引立て「押切」らんと土俵の際に至るとき、立田野が体をかわせしに双方の体離れ其の時泳ぎ込み、送り出しの如くにて伊勢踏切り立田野の勝。
・高ノ矢に鶴ヶ濱は左四ツにて右は双方首に巻き合い、揉合ううちも首投に行くこと両三度なりしが、残りて今度は高ノ矢が後づさり土俵近くにて首投崩れて打チャリ団扇は高ノ矢に上りしも物言い付て預りとなれり。
・知恵ノ矢に廣ノ海は右四ツにて大揉みなし、廣は寄りながら内無双に行きしに知恵の体落ち廣ノ海の勝。
・千羽ヶ嶽に出釈迦山は出釈迦が二本差すを、千羽は誂えてもなき結構と上より極め釣出しの勝は十分に思われたり。
・柏戸に友綱は、左四ツより遮に無に寄て友綱の勝。
・綾瀬川に常陸山も左四ツ、綾瀬は上手を引きグッと釣出して勝。
・武隈に浦風は釣合いよき老練家にて武隈は右を差してみつを引き、浦風は左に敵の差し手を巻き右をハヅとなし、隙を伺いては揉出でしが其のうち水となり後、取り疲れ勝負なく引分は妙なり。
・上ヶ汐に高見山は、小手先のせり合にてどうやら相撲を大事に取りしが、上ヶ汐が突張る時高見山は踏切ながらハタキ込ミ上ヶ汐も土俵を出しが、高見の踏切早きを以て上ヶ汐の勝なりし。
・(以下三役)鞆ノ平に高千穂はヤッと立ちて右四ツとなり、其のまま高千穂腰を落して寄身となりスカサズ攻め入りついに寄て勝を得たるに、喝釆場内に鳴り渡り桟敷も落ちるばかりに高千穂の勝を賞せしは、同人が鹿児島産まれのうえ愛敬力士の故ならん。
・大鳴門に(大達の代)高見山は突張て大鳴門の勝。
・剣山に西ノ海は仕切十分に立上り、ヨイショとばかり左四ツも渡り、挑み合いて剣山は右に上手を引き十分ならんと思いし如く、其のまま寄て剣山の勝にてまづ定めの取組を終わりたり、それより番外に移りては其の勝負左の如し。
・友綱に綾浪は左四ツ、友は上手綾浪は下手とみつを引合い、揉み合う事しばらくにして甲残せば乙危く、実に目覚ましき立合にて双方取り疲れ水となり後、友綱が一心に寄るとき綾浪打チャッて勝なりしが物言にて預りとなれり。
・上ヶ汐に高千穂も今日中の好取組みにて、立合い中右四ツとなり揉放きしが後釣出して高千穂の勝となりしかば、又もや起こる大喝釆場内割るるばかりなり。
・鞆ノ平に綾瀬川は、右四ツ上手下手の引合にて是より大揉して水入り後、鞆は上手まで引き乱れ出しが勝負なく引分たり。
・それより後三段目上二段等の飛付勝負ありて目出たく終わりたり。
○力士一ノ矢
・昨日一二の新聞に同人が病死せしとの事を掲載せしが、右は如何なる間違いに出でしものにや、同人は昨今和泉橋向こうの第二医院にて療養中かつ少しく快方に赴きしよしなれば、此に記してひいきの人々に告ぐ。
来ました誤報。昔の通信事情では仕方ない所なのでしょうか・・・現代でもしばらく姿を見ない芸能人などに死亡説が流れることがありますが(;・ω・)さて場所中ですが天覧相撲やその他要人に招かれての相撲開催が優先されて行われることがたまにあります。今回も薩摩閥の権勢が表われていると言えるでしょうか。開催場所は上野とのことでしたが、この日の記事では回向院となっています。