○回向院大相撲(十日目)
・昨日は朝よりの好天気と云い、殊に上元の祝い日なれば薮入の子供等も多く来観せしゆえ十日目としては殊の外の大入なり、さて当場の景況は大戸平、達ノ矢、八幡山等の欠勤、大砲が中途より不勤せしため勧進元の収入に余程影響せしならんか、しかし一月場所だけに収支相償わざる様の事はあらざるべし。
・岩戸川高ノ森は、立合いに岩戸体を潜めて足を取らんず、高も知ったり飛違いて入乱れ競り合ううち、高が敵の右手をタグリ一本背負いに掛け、もんどり打たせて勝を取る。
・不知火雷山は、両人共五月場所には幕の内に入るべき候補者なれば両人は勿論、相撲好きの人々はこの一番の勝負如何あらんかと気込みて見る間に、両人ヤット立上り勢いこんで左四つに組み不知火は最初より腰投を打たんとすまう、雷山は右手の上手に縦三つを取り引寄せて釣らん不知火は腰投を打たんと競り合い、水を入れて不知火右手を敵の首に巻き大揉みに揉み抜きたれど勝負の見えざれば遂にこの相撲を引分けたり。
・是より(三役)となり、笹島礎は右四つに組み、笹が充分に釣上げて釣出さんと進む所へ、礎が土俵際にて廻りこみあべこべに釣出す。
・梅ヶ崎勝平は左四つに組み、勝平は腰投と出し投を交わる交わるに打ち梅は上手投を打たんと競り合い、水入りてなおも厳しく競合いたれど勝負の見えざれば遂に引分となる。
・一力鬼鹿毛は、はじめ手車を組みて隙を窺い合い、一力より寄り進みし所を鬼が寄り返して寄り切り、当興行もこの相撲にて打止めとなる、弓取の式は相生、鬼鹿毛に代りて勤めたり千秋万歳万歳。
○花相撲
・西ノ海小錦の組に鳳凰大蛇潟の組加わりて明日より横須賀に興行し、それより横濱池上を興行して東京に戻り平川天神にて興行する由、また大戸平大砲の組は十八日芝愛宕下に、大碇鬼ヶ谷の組は中洲にて興行なし、それより旧暦の正月となりてより近県へ出稼ぎする由。
千秋楽はいつもの十両以下の取組です。不知火はこの日は熱戦の末の引き分けのようです、土付かずで十両の中では最優秀の成績。記事には登場していませんが唐辛(とうがらし)という珍名力士が上位に進出して勝ち越し、入幕が見込まれます。十両落ちしていた鬼鹿毛も千秋楽結びの一番で勝ち越し決定、幕内復帰となりそうです。
明治27年春場所星取表
西十両6・不知火光右衛門