○回向院大相撲
・当日三役の八ツ房猫又は、猫の右さしを八ツ房は巻き込みて挑み猫下手投を打て勝。
・笹嶋当リ矢は、突合いて突出し当リ矢の勝。
・関ノ音狭布里は狭より左をさし、右を首に捲き両足を両掛して敵を巻倒さんとせしが、潰れて関ノ音勝、弓取の故実は相生勝相撲関ノ音に代わりて演じ、当本場興行千秋楽を告ぐ、勇まし勇まし。
○赤十字社慈善相撲
・六月一日より五日間、回向院境内にてする由。
○相撲の病に付ける薬
・近年一月五月の本場所相撲興行毎に、撲殺しても死にそうもなき力士共が触れ太鼓の音を聞くとにわかに大勢病者の発生すること場所毎に流行せり、当場にもすでに西ノ海小錦をはじめとし響升玉龍谷ノ音司天龍達ノ矢高ノ戸小天龍と幕の内ばかりにて九人あり、中には実際の病気もあるべきなれども多くは仮病なるべし、しかるに不思議やこの病者が十日目のやぐら太鼓を打切ると共にケロケロと平癒して、翌が日市中にまれ横浜にまれ花相撲の興行が始まると共に恬として病気あがりの様子も見えずなりぬ、ある人この病原をドイツ帰りの毒取先生に聞く、先生曰く病者につきて一診を要せざれば断言すること能わずと、それ然り、ある人また(主人)雪の屋に問う、主人得意然として答えて曰く、主人すら一診を要せずしてこの病原をよく知れり、これは経妻呑衣癌と云う性にして太鼓の音を聞いた位で発する病性にあらず、彼等巡業中打つ呑む買う三拍子のために日々得る資よりも消費する資の多く、借金を質に置いて遣う位はあり、うちの事しかして本場前帰京するや人並みに新衣新調の資もなくして、押して出勤するも得る給銀は契約になりて人のものなれば見っともなき姿と外聞とを憚りて起こる病なり、これを治す妙薬主人の発明薬あり、発明とて主人の家にて製造するものにはあらず、大蔵省の田尻さんや本郷の田口さんが口伝の蓄財薬タメロー丸を製し、これを服用して給金外に得たる纒頭をいづれの国にもある郵便貯金局に預け、そして帰京して見よ、太鼓病の発する憂いなき事をきっと保証するなり、この処方がすなわち相撲の病に付ける大妙薬なり。
今場所も無事終了、十両上位では一力(いちりき)が勝ち越して翌場所に入幕となります。さて場所前に相撲の技を解説していた雪の屋さんが登場して本場所を休みがちな力士達に意見を述べています。いろいろな人が出てきますが、毒取(どくとる)先生というのはおそらく架空の人物でしょう。時代も今とは違うので豪快に散財してしまう力士は多かったことと思いますが、副収入を貯蓄するというこのアイデア、現在の懸賞金において似たような制度が実行されており興味深いです。
ニュース専修(田尻稲次郎)
近代日本人の肖像(田口卯吉)
明治27年夏場所星取表