○回向院大相撲
・前号の紙上に記せし如く紛紜無事にまとまり一昨十九日初日となりたり、同日は日曜日の事とて面白き顔合せの少なきにも拘わらず景気よかりし。
・勝平に大蛇潟は、左差し寄り倒して大蛇の勝。
・当り矢に大纒は一二合突き合い、突き出して当の勝。
・天津風に鬼ヶ谷は、合四つにて角力いしが下手投にて天の勝。
・今泉に松ヶ関は五六合突き合い、今の左差しをはづして右四ツとなり揉み合いしが、押し倒して今の勝。
・鉄ヶ嶽に鳳凰は、撓め出しにて鳳の勝。
・越ヶ嶽に海山は、左四ツ海の釣り出しを堪えまた左四ツとなり、上手投げにて越の勝は綺麗なり。
・千年川に不知火は、三四度突き合い不知のよろめく所を廻りて突き出し千年の勝。
・小錦に一力は一二合突き合い、すぐ突き出して錦の勝。
・中入後、両國に梅ヶ崎は、激しく突き合い瞬く間に突き出して両の勝は素早きもの。
・玉龍に雷山は、二三合突き合いハタキ込みて雷の勝。
・逆鉾に小松山は、左筈押し出して逆の勝。
・出羽ノ海に谷ノ音は、左四ツ引落して谷の勝。
・北海に唐辛は、突き合い寄り倒して北の勝。
・京ノ里に大砲は、一二合突き合い寄り切りて大の勝。
・若嶋に大碇は、立上り左四ツまた合四ツとなり角力ううち水入、後再び組みて腰くだけ若の敗。
・朝汐に小天龍は、突き合い突張りにて小天の勝。
・高浪に大戸平は、左差し寄り倒し大戸の勝にて打ち出したり。
○大相撲
・紛議に紛議、葛藤に葛藤を重ねたる回向院大相撲は、前号に記せし如く首尾よく和解の好果を見るに及び、本日を以て返り初日を出す事になりしにつき、昨日は午前八時より十組の触太鼓を廻し小屋の木戸口には飾り樽を積み贈り幟を立てたれば、近傍一円にわかに景気づき昨日の霜枯今日の春陽、二季の相撲を命の綱と頼む関係人一同が開く愁眉と引く霞、瑞雲靄靆、並ぶ櫓はなけれども錦繍を引くに異ならず、殊に今日の初日は日曜の休暇なるをもて貴顕紳士会社員の付込みも少なからず、二十一日よりは吉原その他の付込み概ね虚日なしという、かねては昨日年寄仲間と主だちたる力士とが和解の祝宴を開く筈なりしも、力士仲間はこの程より連日の集会に金を使い過ぎ化粧廻し羽織などを七ツ屋へ飛ばしたも多ければ、この上酒を飲んで第二次会でも開いた日には身躯も疲れる懐中も寂れる稽古も充分出来ぬからとて閉場後打ちくつろいで飲む事に寸法を替えたという。(東京朝日新聞/1.19)
開催の危ぶまれた春場所、待ちに待った初日でファン達の喜ぶ様子や何となく華やいだ街の雰囲気が目に浮かびます。西ノ海は休場してしまいましたが他の役力士は勢揃い。先場所の好成績で新小結に昇進した怪力の海山は越ヶ嶽との力相撲で黒星を取ってしまいましたが、今回の事件で奔走した西方力士がよく奮闘して白星を稼いでいます。化粧廻しを質屋に流してしまった力士は気の毒ですが、集会のたびに酒を飲み過ぎなのではないかと想像します(;・ω・)
明治29年春場所星取表