○回向院大相撲
・昨十四日(初日)は、例の通り貴顕紳士の来場ありて初日ながら相応の人りありたり。
・司天龍に鳴門龍は、司天の諸差しを鳴門は上手にて相手の首を巻き捻らんとして、司天は逃げたれども廻込んで返られしため司天の体潰れて負。
・雷ノ音に鉞りは、互いに突合い鉞の組み入らんとするを雷は突くと見せて素早く右足を取て雷の勝は面白し。
・千代川に松ノ風は、千代の出鼻を松は透かして双手にハタキ出したり。
・八剣に稲瀬川は五分五分の角觝なるが、剣のアセリて来るを稲が隙さず突いて稲の勝はあっけなし。
・隈川改め金山に勝平は、金の右差しにて掬わんとせしを、勝は得意の右内枠にて見事の勝。
・玉風に若島は、玉の突きに若の体崩れ二度目の突きに泳いで溜りへ落ら、相手がかえって気の毒そうなりし。
・熊ヶ嶽に唐辛は、熊の注文中唐は矢筈にて押切りたり。
・越ヶ嶽に鬼ヶ谷は、鬼が立ちおくれながら突掛りて土俵際まで押寄せし時、越は踏み堪えて投げを打らしも体すべりて越の勝。
・當り矢に小天龍は、當りの突きに小天の負け。
・逆鉾に横車は、横の諸差しにて釣り行くを逆は左差しにて押切りたり。
・大纒に谷ノ音は、大の右差を谷例の内掛にてもたれ込み同体に落ちたり、しかるに谷の体やや少し早かりしとて団扇は大に上がりしが、海山の物言い出て丸預りとなる。
・若湊に狭布里は、立上るや若の右手を夕グりて体をかわし尻にて押出さんとすると、若はここぞと耐え左足を渡し込みて送り出さんと力を込めたる時、狭布の腰砕けて若の勝、この双方の取り口はいまだ名もなく木村庄之助も知らぬと云う。
・黒岩に海山は、黒の左四ツにて寄るを海は体を引くと同時に投げを打らしが、黒はそのまま寄り行き海は懐狭くして打つ事も出来ずためらう所を黒に寄り切られて負け、この時満場大喝采。
・小錦に小松山は、錦が例の突きに小松は体もけし飛ぶばかりなりしが、小松は浮きながら錦の左を取りてタグリしより錦は自体の力にて脆くも倒れて小松の勝、小錦は一月場所に荒岩に負けしよりも脆かりし。
・(中入後)岩戸川に鶴ヶ濱は、鶴が左筈にて押し切り岩戸の勝。
・笹島に境嶽は、笹の老練なる境の筈にて寄るを苦もなく透かして笹の勝。
・雷山に鬼鹿毛は、雷の左四ツにて攻めるを鬼は喉輪にて押切らんとし、雷はこれをほどきてまた寄るを鬼は上手にて首を巻き得意の捻りにて勝たり。
○回向院大相撲の事
・西方の幕内力士と角觝協会との間に確執を起して互いに一寸も後へ退かず、一昨日曇天を口実にして入掛にせしも、実はこの紛擾のためなりしとは既に昨日の二回にも記載したるが、なお昨日も一向太鼓を廻す様子なく、この分にては何時和解すべしとも見えざれば、茶屋はさらなり出方の面々も一同青くなりて憂いに沈み居りしところ、室田本所警察署長および飯島同区長はかくては区内の安寧等に関していささか懸念なきにあらず、また双方にとりても大不利益の事なりと心配の余り昨夜八時三十分一個人の資格をもって本所署へ角觝協会の役員を召喚し、ねもごろに説諭するところありしより、総代八角灘右衛門はなお一同に協議を仕り何分の御返答を申すべしとて引きとりしが、やがて力士等に損害金を支払わしめんとかたくとって動かざりし前説を取消し、ここにようやく和解する事になりたれば、今十三日晴天なれば太鼓をまわし明十四日より花々しく興行すとなり。(5.13)
中村楼事件以来、力士側と協会側の溝は依然として残っているようで、このような小さなストライキは珍しくなくなってきます。とにかく早い段階で和解して本場所開催が出来て良かったです。大戸平は先場所5勝3敗と勝ち越しましたが関脇へ降格。少し前には大碇も負け越していないのに大関陥落しており、1~2点の勝ち越し程度では大関として不十分な成績であると判断されたのでしょう。初日、新入幕の黒岩はいきなり海山を破り殊勲。速い攻めが光りました。若湊と狭布里は決まり手不明の珍勝負、後ろもたれに失敗して倒れてしまったようです(;・ω・)若湊は約5年半ぶりの三役返り咲きで張り切っていることでしょう。小錦は小松山に手繰られて黒星、横綱3場所目ですが初日は3連敗となってしまいました。小錦は気が小さかったと言われていますが、初日は硬くなっていたのかも知れません。
明治30年夏場所星取表