○大相撲の紛議ほぼ纒まる
・一昨日、西方力士の代表者大戸平が仲裁者に対し関脇以下の力士に相談の上、彼等さえ和睦の事を承知すれば自分においては異議なしとの答を為し、後刻確答すべしとて引取りたるまでの頓末は前号に記載せしが、同日夕刻に至りても更にその確答のあらざるより仲裁者の一人は相生町四丁目なる大戸平の自宅に到りてその返答を聞かんとしたれども、折ふし主人は家にあらず門弟のみ台所にありて酒を飲みおり、何事も跳ね附けて返答せず、よって更に明朝を待つに決し、使いはひとまづ引揚げたり。
・是より先、大戸平は本所区内に集会しては仲裁者の催促面倒ならんと思うより一味の人々を一昨日午後より日本橋区米澤町三丁目の布袋屋(待合出願中)へ招き寄せ、今は己れも仲裁者の説に服しおる事とて一同に向かい懇ろに説諭する所ありしかど、一同は容易にこれに服従せず強いて和解せよとならば少しは我々の意見も貫徹させてもらいたしとて各自持説を提出したるのち、そのうち最も賛成者多き二三の説を一同の説として仲裁者の許へ提出する事になり、大戸平は昨日午後を以てこの取次を為したるが、この提出案いづれも至極穏当なる事柄なれば多分高砂方にてもこれを採納すべく、さしもに紛擾を極めたる相撲世界もこれにてようやく収局の見込あるに至れりとぞ。
・その提出案の如きも既に探知し得たれども、みだりに発表する時はいづれか一方の感情を損ぜしむるの恐れあり、かくては折角まとまりかけたる和解に障害を与うるの嫌いあればここには記さず、右の次第にて充分和解の望みはありといえども初日の日取はまだ分らず、分かり次第報ずべし。
・ちなみにいう、西方の力士がかくまで強情を張るに至りしはいづれ内幕に糸を引く者もあるべけれども、なお別に理由の存するあり、これまでは兎角東方に元気の力士多くしていつも西方は敗を取り、従って地方廻りをしても人気余り面白からず、且つ地方廻りにはいつも東方なる西ノ海小錦などの一行が抜け駈けをしてよい土地を糶って歩き、西方の大戸平大砲などはやむを得ず悪場所を歩かねばならぬ傾きあるを西方一同怨みに思い、機会もあらば続けさまに東方を土俵に埋め地方廻りの人気をも挽回せんと思いいたれば、さてこそ今回の如く東方の力士に病人多きを好機とし西方の勢力を示さんとして持説を主張するものなれと説くものあり、なおまた年寄仲間と力士仲間との軋轢についても聞込みたる事あれども、ここには要なきをもてこれを省く。
大戸平が持ち帰った和解の話、西方力士も穏便な姿勢でどうやら解決が見えてきたでしょうか。しかし問題の根は意外と深いようですね。確かに数年前には西方の幕内がとても弱く、戦力の偏った時期がありました。これにより人気の差、収入の格差があったのが要因の一つになっていたとは。そしてもう一つ、はっきり書いてありませんが東方上位力士の大部分を率いて大勢力を誇る高砂への不満があるのでしょう。スクープをつかんでも本人達の邪魔にならないよう情報を隠すあたり、現在と違いマスコミとしてのモラルが感じられます。さて肝心の本場所開催はいつになるでしょうか・・?