・昨日回向院四日目の相撲は見物三千六十六人にて。
・中入前の鞆ノ平と響矢の勝負は前日顔触れの時より諸人待ち設けたる勝負なるが上、双方出世相撲の事ゆえ、始終念を入れて申分なく立ち上り響矢は右を差せしに、鞆ノ平はこの手の上よりミツを取りすなわち右差しにして「アイヨツ」となりて揉合い、響矢はぢりぢりと寄せ付け余程土俵を進みし時、一振り振って相手の腰を浮かすと見えしが其のまま鞆ノ平を押し出したり。
・梅ヶ谷と浦風は双方初日より土付かずの老練相撲ゆえ立合は余程念を入れて立上り、浦風は二本差して押し出しを掛けんとせしかど梅ヶ谷は上より「カンヌキ」を以て締め上げ寄せ付けて押出したり。
・中入後、荒虎と千羽ヶ嶽の勝負は立合い申し分なく立上るや否や荒虎は千羽ヶ嶽の得手なる「釣り」に掛けられ既に危うく見えしが、初日より元気十分の荒虎は釣り上げられながら右足にて相手の左足を蹴て搦みしかば、千羽ヶ嶽は足を折り尻餅つきて倒れたり。
・司天龍と高千穂は「四ツ」に渡りて揉合いし後、司天龍は高千穂を一度釣上げ相手の浮足になりし所を付入りて土俵の外へ押し倒して勝を得たり。
・本日の取組は入間川に稲川、高千穂に千羽ヶ嶽、上ヶ汐に達ヶ関、勝ノ浦に大纒、響矢に司天龍、関ノ戸に阿武松、荒虎に清見潟、浦風に武蔵潟、手柄山に鞆ノ平、柏戸に梅ヶ谷、若島に荒角。
現在、相四つというと双方の得意の四つが同じもの同士であることを指しますが、ここで言う相四つはお互いに差し合って廻しを取り、五分五分の情勢であることを指しているようです。梅ヶ谷は相変わらず強いのですが今回もきめ出し、相撲の取り口としては力任せで少し面白味に欠けるところがあったようです。阿武松はかつて若い頃に兜山という名で快進撃を誇り、その後に大力士「雷電」の名を受け継いで大関にまでなった力士です。病気のため地位を落としていますが翌日も関ノ戸に敗れて休場、次の場所も全休で引退しましたので結果的にこれが最後の土俵となります。
明治14年春場所星取表